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東京地方裁判所 平成5年(ワ)15504号 判決 1997年6月30日

原告

梶ヶ谷保一

梶ヶ谷保治

梶ヶ谷保雄

右三名訴訟代理人弁護士

松井清旭

被告

梶ヶ谷芳子

主文

一  別紙物件目録記載一ないし三の土地を別紙分割求積図の分割線(同図中に示された三つの「計算点」を順次直線で結ぶ、赤線により示された線)のとおり分かち、北側A部分を原告ら、南側B部分を被告に分割し、別紙物件目録記載四の建物を被告に分割する。

二  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

別紙物件目録記載一ないし四の不動産(以下「本件不動産」といい、このうち同目録記載一ないし三の土地については「本件土地」、同目録記載四の建物については「本件建物」という。)を競売に付し、その売得金を、原告らに各二四〇分の二三、被告に二四〇分の一七一の割合で分割する。

第二  事案の概要

本件は、原告ら及び被告がその父及び母から順次相続して取得し、遺産分割協議ないし合意によって共有となった本件不動産につき、相続人のうちの一部から共有物分割請求がされた事案である(原告ら及び被告並びにその父母の氏はすべて同一であるので、以下、当事者の特定はその名をもって行うこととする。)。

一  本件不動産の共有関係等(争いがない。)

原告ら及び被告は、父保蔵及び母芳野の子であり、原告保一が長男(訴え提起時七二歳)、原告保治が二男(同七〇歳)、被告が長女(同六八歳)、原告保雄が三男(同六三歳)である。

本件不動産は、もと父保蔵の所有であったが、同人は、昭和五〇年二月八日死亡し、芳野が持分六〇分の二三、原告保一が持分六〇分の一四、原告保治が持分六〇分の一〇、被告が持分六〇分の一三の割合でこれを取得した。その後、芳野は、昭和五七年一一月九日死亡し、本件不動産に係る芳野の持分につき、原告ら及び被告が各二四〇分の二三の割合で取得した旨の登記がされている(なお、登記簿上、本件土地については、さらに原告保一の持分六〇分の一四が六〇分の七ずつ原告保治と被告に移転した旨の登記があるが、この点について特に主張はされていない。)。

本件土地上には本件建物が存在し、本件建物には被告が居住している。

二  本件訴訟の経緯(記録上明らかな事実)

1  原告らは、保蔵の財産について遺産分割協議を経た前記一の権利関係を前提とした上、芳野死亡後の昭和六〇年七月六日の相続人間の協議により、原告保一の持分六〇分の一四と原告保治の持分六〇分の一〇が被告に移転され、その結果、被告の持分が合計二四〇分の一七一になったとして、平成五年八月、本件訴訟を提起した。

2  被告は、芳野が被告に全財産を贈る旨の遺言書が存在するとし、それに従って遺産を分割すべきであると主張するほか、原告らが主張する協議ないし合意は、被告の関与なしに、あるいはその意思に反してされたものであるとして、その持分割合を争い(被告自身の手による未陳述の答弁書によると、①原告保治の持分六〇分の一〇は被告に移転したが、その時期は昭和五一年四月一日である。②原告ら主張の昭和六〇年七月六日の協議は存在せず、原告保一の持分六〇分の一四は被告に移転していない、③その結果、被告の持分は、二四〇分の一一五である、とされている。)、本件建物に居住し続けたいという意思を表明した。また、別紙物件目録記載一の土地から昭和五八年七月二五日分筆され、後に原告保一の名義で登記された同所七一二番七の土地(以下「本件分筆土地」という。)について、その分筆に異を唱えた。

なお、被告は、当初訴訟代理人に本件訴訟を委任したが、約二か月で訴訟代理人が辞任したため、その後は自ら訴訟を追行してきたものである。

3  裁判所は、被告本人尋問を経た後である第一三回口頭弁論期日(平成七年四月六日)において、本件土地につき、原告らの持分を合計二四〇分の六九、被告の持分を二四〇分の一七一の割合としてこれを南北に分割し、その分割線については鑑定によって決定することを勧告した。原告ら及び被告は、いずれもこれを承諾し、被告は、本件土地分割後、本件建物を移築する意向を示した。そして、第一四回口頭弁論期日(平成七年五月一二日)において、被告の分割予定地の通路幅員を二メートルとし、測量費用を折半することとして、鑑定人に鑑定が命ぜられた。

4  右鑑定中である平成八年七月二日、鑑定人から裁判所に対して同年六月二〇日付けの原告ら及び被告の「合意書」(写し)が提出された。右は、平成八年六月二〇日、原告ら及び被告間において、持分の割合につき、原告保一が二四〇分の七九、原告保治が二四〇分の二三、原告保雄が二四〇分の二三、被告が二四〇分の一一五とする旨の合意がされたものであった。右合意における被告の持分割合は、前記3の裁判所の勧告よりも減少しているが、被告が当初その答弁書(未陳述)において主張していた割合に等しい。また、右合意において、本件不動産に原告保一の単独名義となっている本件分筆土地を加えて一体となった土地を分割の基準として考慮することとされた。

5  ところが、その後、被告は、平成八年九月五日付け上申書を提出し、原告らがその主張の前提とする保蔵の遺産分割協議書(甲九)及び本件分筆土地の分筆が無効である旨述べたほか、右平成八年六月二〇日付けの合意書も、脅かされてやむを得ず署名したと述べた。

さらに被告は、平成八年一〇月四日付け上申書を提出し、私道の幅(前記3記載の被告の分割予定地の通路幅員を指すものと考えられる。)を四メートルにしてもらいたいと述べ、また、被告の取得する土地を北側とする図面も作成してもらいたい旨述べた。

6  これに対し、原告らは、被告が北側を希望することには応じられないが、通路幅員を四メートルとすることには異議を述べない旨の平成八年一〇月一四日付け上申書を提出した。

7  裁判所は、原告ら及び被告の意見を考慮し、平成八年一〇月二八日、本件土地の北側を原告ら、南側を被告が取得し、通路幅員は四メートルとする分割方法を鑑定人に指示した。その結果、鑑定人から、前記4の当事者間の合意及び裁判所の右指示に基づいて分割線を鑑定した平成九年二月一二日付け不動産鑑定評価書が提出された。

8  原告らは、第一八回口頭弁論期日(平成九年四月二一日)において、右鑑定書に示された分割線によって本件土地を現物分割することを希望し、本件建物を被告が取得することに異議がないと述べた。これに対し、被告は、同期日において、本件土地の北側(公道に面した部分)を取得したいと述べた。

三  当事者の主張の主な対立点

被告がほとんどの場面で自ら訴訟を追行してきたため、その主張には必ずしも明確でない部分があるが、証拠調べの結果や期日外に提出された上申書等も参照して当事者の主張の主な対立点を整理すると次のとおりである(なお、以下においては、特に被告の応訴態度をできるだけ明らかにするため、厳密な意味で「主張」と扱われないものも含んでいる。)。

1  原告らは、本件不動産を含む保蔵の財産について、昭和五〇年八月一日付け遺産分割協議書(甲九)により分割がされ、本件不動産については、芳野が持分六〇分の二三、原告保一が持分六〇分の一四、原告保治が持分六〇分の一〇、被告が持分六〇分の一三の割合でこれを取得したと主張した。

これに対し、被告は、右遺産分割協議書には被告及び芳野が自ら署名していないこと、添付されている印鑑証明書が古いことを主たる根拠に、右遺産分割協議書は偽造であると主張した。

2  その後、本件分筆土地が分筆されたが、原告らは、その分筆線が被告の居住する本件建物にかかっていると主張したのに対し、被告は、分筆線は本件建物にかからないように引かれたはずであるとし、もし本件建物にかかっているのであれば分筆は無効であると主張した。

3  原告らは、①昭和六〇年七月六日の原告ら及び被告との間の合意(甲五)により、保蔵から取得した原告保一の持分六〇分の一四と同じく原告保治の持分六〇分の一〇が被告に移転され、その結果、被告の持分が合計二四〇分の一七一になった、②本件分筆土地は、原告保一の単独所有とされた、と主張したが、被告は、右合意を否認し、原告保一の持分は取得していない(原告保治の持分は右合意の時期以前に取得した)と主張した。

4  被告は、芳野が被告にすべての財産を贈る旨の自筆の遺言書(乙一)が存在するのであるから、これに従って芳野の財産が分割されるべきであると主張したが、原告らは、右遺言書の成立を争った。

5  被告は、平成四年六月二七日、原告らに強制されて、原告らが新たに作成した遺産分割協議書に署名押印させられたので、右意思表示を強迫に基づくものとして取り消すと主張した。

第三  当裁判所の判断

本件不動産の分割に際しては、その前提となる保蔵及び芳野の遺産の分割の有無ないし効力に関し、前記のとおり原告らと被告の認識に異なる部分があり、事実認定いかんによっては、本件不動産の分割方法についてなお考慮の余地がありうるところである。

しかし、前記第二の三1のとおり遺産分割協議書(甲九)の効力が争われているものの、その結果取得した各自の持分割合については被告もこれを認めている(被告本人四、五、一二頁)。また、前記三2及び3記載の本件分筆土地の分筆線及びこれが原告保一の単独所有であるか否かの問題については、本件鑑定にあたり、本件分筆土地と本件土地を一体のものとして評価したことにより、右争点を解消していると考えられる。さらに、前記三3の原告保一の持分の取得の有無の問題については、最終的に被告主張のとおりの持分割合で鑑定がされている。前記三4の芳野の遺言書については、その検認を経ておらず(被告本人三六頁)、芳野の筆跡についても対照すべき資料がないため、現段階ではこれを前提にすることができない。前記三5については、当該遺産分割協議書が証拠として提出されていないため、その位置づけ等が不明である。

以上のとおり、当事者間で提起された問題点は、現段階においては本件の審理に直接の影響を及ぼさないものと評価されるが、仮にそうでないとしても、本件不動産の分割に当たっては、裁判所から前記のとおり勧告がされ、当事者もこれに応じたこと、以後、右勧告及び平成八年六月二〇日付けの当事者の合意を前提にして、二年近くかけて鑑定作業が進められてきたこと、右平成八年六月二〇日付けの当事者の合意につき、被告は、これを否定するかのような上申書(平成八年九月五日付け)を提出しているものの、その後提出された上申書(平成八年一〇月四日付け)では、右合意に基づく鑑定作業を前提にした要望を出していること、鑑定は、裁判所の指示と右合意の結果を踏まえて行われ、その結論も適切なものであると考えられること、本件建物に居住したいという被告の希望についても、原告らが配慮を示していること、既に提訴後四年に達しようとしており、当事者が高齢となっていることを考慮すれば、本件不動産については、当裁判所における共有物分割手続により、鑑定の結果に従って分割することが適当である。

よって、本件不動産を主文のとおり分割することとする。

(裁判官伊藤敏孝)

別紙

別紙物件目録<省略>

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